Member 01 杉田宗

 

「既存の形にとらわれない新しい組織で刻一刻と変化し続けるダイナミックな世界に呼応したい」

1)日本とアメリカ、デザイン教育の違い

>海外での教育•実務を経て広島に戻って来られていますが、これまでの経歴をおしえてください。

 

杉田宗(以後杉田) ̶学部時代はニューヨークにあるパーソンズ ニュースクール オブ デザインでインテリアデザインを学びました.卒業後3年間は、米国や中国の設計事務所に勤務し、その後、ペンシルバニア大学大学院で建築を学びました.>なぜ、学部ではインテリアを専攻し、大学院では建築を学ぼうと思われたのですか?杉田 ̶実家が設計事務所をしていたので、最初は少し違う世界を学びたいと思ってインテリアデザインを選びました.ちょうど、在学中の2001 年にニューヨークで9.11のテロがありました.まわりの学生達も元気を無くしていたというのもあり、気分を変えようとそのまま一年間休学してヨーロッパを回りました.そこで様々な建築と出会う中で、やはり建築は良いな~と素直に向き合えるようになりました.

 

>アメリカのデザイン教育ってどのような感じなのですか?

 

杉田 ̶向こうでは、入学にあたり必ず経歴をチェックされます.そして、異なるバックグランドを尊重するところがあります.国籍も多種多様ですから.違いを認めあい、活かそうとするところがありますね.そういったことも含めて、学習環境は刺激的でした.日本の教育と異なり、やはりダイナミックでしたね.

 

>具体的に日本の大学とどのようなところが異なりますか?

 

杉田 ̶日本の場合は、研究室という制度が強いと思います.それがプラスにもマイナスにもなっている気がします。 あれだけ多くの人材がまっているのだからもっとすごいことが出来る環境だと感じます.常に新しい人材を生み出す組織としては古い印象を受けます.

 

>え?アメリカには研究室が無いのですか?

 

杉田 ̶向こうのデザイン系の大学は、スタジオ制で研究室という制度はありません.3ヶ月をひと学期として、学生達は学期ごとに、異なるデザインスタジオを受講する仕組みです.まず学期が始まる前に、各スタジオから課題が発表され、学生は希望するスタジオにエントリーします.ペンシルバニア大学大学院では、一学期につきだいたい6~7スタジオが立ち上がります.学生数はひと学年60~70人ですから、ひとスタジオにつき10名程度の学生がいることになります.週3回の午後全てがスタジオの制作にあてられていますので、ベビーです.また、教員も基本全員非常勤です.最終学年になると著名な建築家が来たりします.スタジオ制だと、教員の評価も明確になるので、教員間の競争意識が激しいです.まず、エントリーの段階で学生の人気の有無がはっきりします.学生の成果品も評価の1つになるので、他のスタジオの学生達に負けるなと先生達も必死です.

 

>さすが競争社会、徹底してしますね.一方で日本の大学の良いところってありますか?

 

杉田 ̶ある分野をじっくりと研究できるところではないでしょうか.アメリカの大学院では、修士論文を書く学生が減ってきています.原因は、留学生が多いため、英語力に問題があるためのようです.また研究をするならドクター、という様に修士と博士が明白に分かれている状態でした。

 

 

2)アルゴリズミックデザインの可能性

>杉田さんの専門性とは?

 

杉田 ̶大学院時代の研究のテーマは、プログラミングどを取 り入れたアルゴリズミックな設計手法や最先端のデジタル技術 を用いた新しい建築の可能性でした。まさに、今話題の3D プ リンタやレーザーカッター等を用いたデジタルファブリケー ションなどですね.これでに無い新しい建築の作り方で、新 しい価値が見出せるのではないかと期待しています.

 

>デジタルファブリケーションに注目されたのはなぜですか?

 

杉田 ̶リサーチという枠組みでコンピュテーションを活用した 社会や都市の研究は既に多くの人によってやられていますし、 その成果も十分にあると思います.これからは、それらを実社 会に落として行く段階にあるのではないかと考えたためです. 今後設計のプロセスでコンピュテーションが一般化していく過 程で、デザインをアウトプットする為にはデジタルファブリケー ションは不可欠だと思います。また建築に使われる既存の技術 を拡張させるという意味でも、様々な研究がされている、面白 い分野だと思います。

 

>なるほど.

 

杉田 ̶大学院では、建築構造家のセシル・バルモンド(Cecil Balmond)のスタジオに所属していました.そこでのテーマは、 マルチエージェントシステムと呼ばれるバラバラのものが知性 を持ちながら全体のカタチを形成して行く群知能のアルゴリズ ムがあり、それを用いた設計手法の研究でした.分かりやすく 言えば、自然界には、絵本のスイミーのような群となって動く 魚達や鳥達がいますよね.その動きを再現しようして開発され たシミュレーションプログラムを建築の分野へ応用しようとす るものです.

 

>設計課題としてそのテーマに取り組んだ訳ですか?

 

杉田 ̶そうです.課題としては、キャンパス内をリサーチして、建築学科の新しい施設を提案しなさいという内容でした.そこで、私たちのグループが考えたことは大きく2つあります.まず、はじめに、キャンパスの現状を分析し、そこから導きだされた特定の機能を設計するといったアプローチを止めました.より本質的に捉え、 学生達の様々な活動に対応し、支援するような場所を設計しようということになりました.ただ、人が集まる場所といっても、3~5人の場合もあるし、50人といった講義の場合や、200人といったイベントの場合など様々で、それぞれが特定のアクティビティを発生させています。また個人個人の関係性を超えた、グループ間の関係性も生まれます。これら、個々の動きやグループの挙動を群知能をつかって検証できないかという試みです。次に、その上で先行事例についてリサーチしました.そこで注目したのが、ミースが設計したイリノイ工科大学(IIT)です.IIT のキャンパスや校舎は、ご存知の通り、ミースが提唱したユニバーサルスペースといった思想のもとに設計されました.ユニバーサルスペースとは、建築が機能を定義するのではなく、ユーザーの使い方に応じて事後的に機能が決まるといったコンセプトですが、実際の使用状況を調査すると、自由で多様な使い方がされているとは言い難く、むしろ機能は固定化していました.我々はユニバーサルスペースの自由の中にも、「アクティビティの垢」が蓄積される結果、空間の定義がされてしまっていると考察しました.それを乗り越えるために、私たちは発想を転換するべきだと考えました.そこで、ヒントにしたのが蟻のフェロモンです.蟻は、巣や獲物までの道筋にフェロモンを残すことが知られています.私たちには蟻のフェロモンがまるで「アクティビティの垢」のように映りました.フェロモンがどんどん蓄積されて、それがカタチとなり、次第に建築の一部となっていくといったアプローチです.具体的な建築へと発展させるべく、2つのマルチエージェントシステムを用いました.1つ目のマルチエージェントシステムで、建築内部で行われるアクティビティを先に再現しておき、時間の経過とともに「空間の癖」となるものを構成しました.次に、フェロモンを第二のシステムであるステックに変換させます。このステックにも知能があり、個々のステックがどういった並びだと全体として成立することが可能かをチェックしながら, 全体のカタチを決めて行く造形生成を行っています。以上をその結果うまれた建築がこちらの写真です

 

実際にプロジェクトを進めている間に、スペインのガウディの 建築をを見る機会があり、その空間に感動しました。ガウディ の作品は、部材ひとつひとつが自ら集まって出来た感があり、 周りとどういう風に関係性をもっていればいいのかだけで成り 立っているように見えます.新しい概念や価値観をもった建築 とは、このような物を言うのではないかと考えています。

 

>確かに、群で出来ており、まるで雲のような建築ですね. 結果どのような評価だったのですか?

 

杉田 ̶造形的には無茶なところもあります.しかし、私たちは、 この作品を新しいカタチとしての評価するのではなく、関係性 から作られる新しいデザインとして注目するべきだと考えるよ うになりました.建築から空間をとってしまうと何が残るかと いうと、ピュアな関係性だと思います.これらの新しいデジタ ル技術は、その関係性をダイレクトにデザインすることができ ると考えています.その結果.建築や空間構成における既成概 念を解体・再編する契機になるのではと期待しています. 一方で、アンビルドなのではといった指摘はもちろんありまし た.当初からビルドとアンビルドの壁は、我々も強く意識して いました。幸運にも卒業直後の国際コンペで我々のデザインが 最終案に残り、パビリオンとしてニューヨークで実際に施工し、 プロトタイプを建てることにも取り組みました.その作品がこ の写真になります.

 

>すごい迫力ですね!また、どこまでいっても未完成といった 動的な印象を受けます. その後、広島に戻られて、今は実家の設計事務所で働いておら れますが、現在の実務と学んだことのギャップはあったりしま すか?

 

杉田 ̶日本に戻って来て、果たすべき役割は2つあると思って います.ひとつは、コンピュテーションを用いた新しい設計技 術を駆使できる人間としての役割です.国際コンペチームメン バーとしての竹中工務店への出向や、東京大学大学院Global30 国際都市建築デザインコースでのコースアシスタントはそう いった側面を評価されてのことだと思います.もう1つは、建 築の根源的で、核となる部分をより深く掘り下げる役割です. 最初は前者として声がかかることが多かったのですが、今は次 第に後者へと軸足をスライドさせつつ、実務に落とし込んで行 きたいと考えています. 例えば、スモールハウスデザインラボの田中さんと組んで、住 宅兼店舗の設計を進めたり、さしものかぐたかはしの高橋さん と組んで、パン屋さんのショーケースを作るプロジェクトがそれにあたります.

 

3)東京ではなく広島で、アトリエ系ではなく旧来型の設計事務所でやる理由

 

>杉田三郎設計事務所での役割としてはどうですか?

 

杉田 ̶建築に携わる人間や組織が今後どうあるべきか、考え直 す時期に来ていると思います.しかし、教育も含めて古いスタ イルが未だにスタンダードとして居座っています.日本中でも うちのような旧来型の設計事務所がまだまだ大半でしょうから、 ここから新しいやり方を示すことが出来ればと面白いと思って います.

 

>では、最初からアトリエ系ではなく、組織設計事務所のよう なところで就職しようと考えていたのですか?

 

杉田 ̶実のところ、あまり深く考えていませんでしたw.確か に、最初はアトリエ系も考えており、大学院在学中にオープン デスクで東京の有名アトリエを点々としたこともありました。 しかし、 将来的なクリアーなビジョンが見えなかった。そんな 時に、ヨーロッパを廻っていた時の友人から,「広島に還元しろ」 というアドバイスを受け、その時、ハッとしたんですね. 広島 の典型的な設計事務所で新しい方向性を打ち出せたら、そこで しか出来ないこともたくさんあるのではないかと考えるように なりました。

 

>杉田三郎建築設計での活動とは別にS.O.N(Source Organization Network) というユニットでも活動されていますね。 立ち上げの経緯を教えて下さい

 

杉田 ̶ペンシルバニア大学大学院在学中に、インテリアデザイ ナーの小西啓睦から香港でのレストランプロジェクトを一緒に やらないかという話があり、大学院で研究していた事も活かし ながら恊働で設計しました。その後、 二人の専門性や技術をリ ンクことで、建築やインテリアの分野で生まれる新しい方法論 や価値などを見つけることができるのではないかと感じ、 デザ インリサーチユニットを立ち上げました。継続的にコンペやイ ンテリアのプロジェクトに取り組みながら、そこで培われたア イデアや技術をそれぞれの事務所での実務に反映させて行くと いう形です。このような組織デザインや設計に関わることは、 多くなるのではないかと感じています。個々の知識や技術をリ ンクさせて組織化することで、 刻一刻と変化し続けるダイナ ミックな世界にも呼応する様な集団が出来るのではないかと考 えています。

 

>広島のどんなところがよいですか?

 

杉田 ̶広島の街のサイズって最高じゃないですか! 毎週水曜 日、東京の出張からもどり、広島駅から自宅まで歩いて帰るの ですが、川があり、自然も程よくあって気持ちがいい.なんといっ ても人がいい.東京にいった際も、広島の人っていいよねと結 構言われることがあります. そして、クライアントもいいです ね.ある東京の建築家が、広島をはじめとした中国地方のクラ イアントは、他の地方とは異なり、既成概念を持ってない事が 多いと言っていました.なにか新しい建築を作る基盤がここに はあると。 また、海外に長くいた経験から言うと、広島は海外でも知名度 が高いです.広島出身ということだけで、助かったことが何度 かありました.

 

>そういえば、ブータンでも通じましたね

 

杉田 ̶広島のポテンシャルは非常に高いと思います.

 

>戦後、先駆的な都市建築が建設された場所でもありますし、 また、広島派と呼ばれる上の世代が層で活躍しており、広島建 築界といったまとまりがある非常に珍しい地域でもありますよ ね

 

杉田 ̶そうですね.全国的にみても広島は「建築の街」として のイメージが強いと思います。上の世代が築き上げた基板を活 かしながら、もっと若い世代が続いていかないといけないとい けないですね。

 

>同世代の若い建築家を意識することってあったりしますか?

 

杉田 ̶もちろん、あります.同世代なのに既にこんなに活躍し ているのかと感じる方が多いです.スタートが遅かったので、 作品数ではなかなか太刀打ちできませんが、できれば一緒に切 磋琢磨していきたいです.建築家は、単にモノを造るだけでは なく、思想や理念を新たに作り出すことも重要だと思いますの で、今回のような議論の場に参加できることはとても有り難い とおもっています.

 

>こちらこそ、始めての試みなので至らないところが多々ある かと思いますが、ゲストや参加者からもどんどん意見をもらい ながら一緒になって場を盛り上げていければと考えています. 当日はよろしくお願いいたします.今日は長時間にわたり、ど うもありがとうございました.

 

杉田 ̶こちらこそ、ありがとうございました.当日楽しみにし ております.

 

「stickMergy」(Philadelphia, 2010)

「gathering」 パビリオン (ニューヨーク 2010)

「Tsumibako」(Okayama, 2013)

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